先日、やっと、映画「アバター」を見に行く機会がありました。
今まで記事を書きましたが・・・正直言って、期待通りでした。クオリティー は良かったのですが、悪くも素晴らしくもありませんでした。映画館でお金を支払ってみる価値はありました。ですので、「アバター」は見に行っても、見に行 かなくても良い映画です。時間があれば見に行っても良いんじゃないでしょうか〜。
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<関連記事>
● 「Avatar」は「Titanic」を超えられない
https://ja.katzueno.com/2010/01/1111/
● 500ドルの映画と「アバター」の200億。制作会社経営者が考える制作費と経費計算
https://ja.katzueno.com/2009/12/1105/
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前回3D映画を見たのは20年以上前のどこかの博覧会だったかもしれません。なので10年以上ぶりに3D映画を見る機会があったような気がします。
ということで、今回は「アバター」というよりは、今後、映像制作者にとって、そろそろ3Dを本格的にはじめなくちゃいけなくなってきたということを書きたいと思います。
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■ 今回の3D化は本気だ!3度目の正直
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今まで映像の3D化は、1960年代から行われている、結構歴史の深い技術です。
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● 立体映画 – Wikipedia
http://ja.wikipedia.org/wiki/%e7%ab%8b%e4%bd%93%e6%98%a0%e7%94%bb
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私も Wikipedia の記事中にある「アナグラフ式」「偏光眼鏡式」「液晶シャッター式」「円偏光式」全てを体験してきました。
私事かもしれませんが、今回の「アバター」は、体調が悪かったということもあって、かなり3D酔いしてしました(苦笑)技術的な問題もまだまだ山積していると思われる3D技術です。
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とにもかくにも、3D映画が開発されてから50年経っている3D映画ですが、私たち、映像制作者の間では「また3Dかよ〜」「3Dなんてまだまだ」と言っている人たちが沢山いらっしゃいます。
上記のように、いくつもの技術が開発されるも、コストが高く普及していない・・・その繰り返しを見てきた私たち映像制作者にとって、今回の3D熱も、一時のことだと思っている人もいらっしゃいます。
しか〜し、どうも今回は3度目の正直のようです。本格的に3Dの映像制作に本格的に取り組まなければいけない状況が揃ってきたようです。
今からその理由を書いてみたいと思います。
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1. カラー化、ハイビジョン化(デジタル化)が完了したから
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映画・テレビは、追いつき追い越せを繰り返してきました。
テ レビ放送が開始されると、映画がカラー、より大画面、ワイドスクリーン化を試みました。ハイビジョンテレビが発表される90年代には、“映画館”というス ペースを利用した5.1チャンネルのサラウンド化。そして、テレビの地デジ & HD化で、映画業界は 3D映画を上映することによってテレビとの差別化を図ろうとしています。
テレビも映画も、技術が進歩しないとお客さんはついてきません。
テレビも、進化しないとお客さんは、テレビが壊れるまで使い続ける人しかいなくなり、テレビが売れなくなります。
1960年代、まだまだ映画ともテレビともカラー化をすることが課題でした。なので、お金がかかりすぎる3Dのことを考えなくても良かったのです。
1990年代、3D技術が進歩しましたが、まだまだハイビジョンや5.1チャンネルサウンドなどのより安価な新技術の普及を優先させました。
2000年代、デジタル化 & テレビのHD化に尽力が注がれました。
さて、2010年代・・・。各メーカーが「次に何したら、えーんやろー」とネタを考える必要が出てきたのです。
なので、今回は4度目(?)の正直で、ネタ切れから3D化を本格的に考えなくては行けなくなったのです。
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2. 下克上・映像メーカー
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また、各大手企業は、なぜ、今3Dに力を入れないといけないかというと、デジタル化で、いろんな企業が参入し、生き残り策を考えなくなってきたからです。
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1990年代のビデオカメラを考えてみましょう。家庭用ビデオカメラメーカーは、ソニー、キャノン、JVC、サンヨー、京セラなど、数社しかいませんでした。
今は・・・デジタル化、高性能化によっていろいろな精密機械にカメラを組み込めるようになってしまいました。ビデオカメラというか、デジカメ、携帯でもスマートフォンでも、パソコンにも「ビデオカメラ」機能がついています。
カメラとビデオカメラを作っているキャノンさんなんか、カメラでも動画機能を付けないといけなくなったので、社内のチーム同士が敵になったようなものです。
低価格競争などから脱するために、付加価値のある新技術を導入しなくてはいけない時代になったのです。
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また、業務用・放送用・映画用機器メーカーにとっても、価格破壊による生き残りを3Dに賭けないといけない状況になってきました。
まず最初に、映画用デジタルカメラのベンチャー企業「RED」社の登場です。昔は同じようなクオリティーの映像を撮影するには数千万円のカメラへの設備投資が必要でしたが、この会社は3年前、
「RED One」という名前の映画カメラを発表。300万円という、今までに比べ10分の1の価格で、同じような映画クオリティーの映像が撮れてしまうデジタルカメラです。
ちなみに以下は、私の知り合いの撮影監督が、上記のカメラを使い、テストを兼ねて撮影した作品です。マスタングの勝手プロモです(Ford社に頼まれたわけでも頼んだわけでもない勝手に作った Mustang のプロモです)
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● The New Girl (Ford Mustang)
http://www.youtube.com/watch?v=VWCjr_ieErQ
*できれば「HQ」ボタンを押して高画質 & フルスクリーンで試聴してください〜
ちなみに、このプロモの中にあるフォードのディーラーは私が住んでいたアパートから歩いて1分のところにあります〜。
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そして、次に現れたのは・・・キャノンさんの、5D Mark II。
このカメラは、なんと50万円以下で“映画”が撮れてしまう写真カメラです。
このカメラでも、私の大学の後輩がミュージックビデオを作っています。ちなみにハムスターの映画も作った日系アメリカ人のJeffです。
● “Crashing”
http://www.youtube.com/watch?v=b4HerFgBY_Q
*できれば「HD」ボタンを押して高画質 & フルスクリーンで試聴してください〜
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すごいですね〜。価格破壊です。
さて、これで困っているのは・・・。
そう、今まで2〜3000万のカメラを作っていたメーカーの皆さん。
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もう、50万円という、ちょっと頑張って貯金したら手の届く値段で、プロの映像を撮れてしまうので、数千万円の機材を作っている(た)メーカーさんにとって、50万円のカメラでは出来ない機能を取り入れなければいけません。
それが3D技術。
つまり、今までの老舗、映像機材メーカーの皆さんは、もう3Dに行かないとやっていけなくなったのです。
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3. 下克上・クリエーター
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さあ、次は、映像制作者にとっても、ヤバイ状況になってきました。というか私のことです。
一応、私はプロです。お金をとって映像を作っています。
今までプロの私たちの中には、ローンをせっせと組んで、普通の人が買えない様な数百万円の機材を揃え、“プロでしか作れない”高クオリティーの映像が作れるから・・・ということで飯をくってきた人も多いです。
ただ、上のような、特にミュージックビデオのようなクオリティーのビデオが、制作費が10万円以下で作れてしまうようになると、お客さんから・・・。
「こんなクオリティーの映像、素人でも撮れるよ〜」
と言われてしまいかねません(苦笑)
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例えば、以下に、京都の大学生の方が学祭の為に作った短編アニメがあります・・・。
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● 自主制作アニメ 「フミコの告白」
http://www.youtube.com/watch?v=0QqT1P4VO30
はい。このアニメは、数人の学生さんだけによって作られたアマチュア作品です。
ここまでアマチュアさんの力が上がってくると、プロとしては、3Dに行かないとだめでしょう〜というのが本音。
アニメは特に“比較的”簡単に高クオリティーの作品がつくれるということで、ディズニーさんは2年前から、実写作品もアニメ作品も含めて3D化に真剣に取り組んでいます。
プロとしてアマチュアさんより一歩先に常に行かなければいけない・・・。
なので、一歩先というのが3Dになるわけです。
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4. 価格破壊!
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さて、私の以前の記事で、「Avatar」の制作費には3Dカメラの開発費が含まれているということを書き、その例を書いてみました・・・。
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● 500ドルの映画と「アバター」の200億。制作会社経営者が考える制作費と経費計算
https://ja.katzueno.com/2009/12/1105/
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その例とは・・・。
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簡単な例:
円●プロ:今度の新作「ウル◯ラマ◯」の映画で新型カメラ使いたい
ソ●ー:了解。じゃあ、新しいカメラ作るよ〜
<一年後>
ソ●ー:でけたよー。開発費に20憶円かかったから、15億払って
円●プロ:え〜。なんでよ〜。どうせ、そっちもそのカメラ売るんでしょう〜。
ソ●ー:(ドキっ)でもさ〜、このカメラ、この作品のために作ったんよ〜
円●プロ:しょうがないな〜。10億にまけてくれ〜
ソ●ー:そんだけですか・・・。しょうがない・・・分かりました。10億で手をつけましょう・・・
(ラッキ〜。もう100社が1システム3000万で購入してくれるって言ってるから、10億ぐらい利益くるぞ〜。ウッシッシっし〜。)
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(このストーリーはフィクションです。)
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上のストーリーを書いたのは、去年2009年12月10日です。んで〜。以下のニュースを、「DAVICS2 映像つくるヒトのSNS – DAVICS」のメンバーさんから教えていただいた時、思わず吹き出してしまいました・・・。
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●<プレスリリース> 世界初、一体型二眼式フルHD 3Dカメラレコーダーを発売
http://panasonic.co.jp/corp/news/official.data/data.dir/jn100107-3/jn100107-3.html
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いやはや・・・これほどドンピシャ過ぎることが起きてしまって自分でも驚いています。
しかし、それ以上に驚いたことがあります。それは、カメラの予想以上の性能進化と価格破壊です。
今まで3D映像は、人間の目のように、カメラを2台使って撮影していました。なので、私はてっきり、1千万円単位のシステムを売り出すかな〜と思っていたのです。
しかし、蓋を開けてみると、一体型で、値段が200万円!
これには脱帽しました。一体型が出るのは2012年くらいかな〜と勝手に思っていたので・・・。2年早く値段が5分の1。
制作者としてこんなに安価なシステムが登場したら、プロの皆さんあれよとの間に3D化が進んでしまいます。
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そして、つい先ほど終わった、ラスベガスの家電ショー CESでの発表会で・・・。
● CES 2010: Vizio takes on high end with new XVT Pro LED-based HDTVs, including 3D models
http://blogs.zdnet.com/home-theater/?p=2274
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Vizioという台湾の格安液晶テレビメーカー。日本ではCostcoで販売されているので知っている方もいらっしゃるかもしれません。そのVizioが、今年の8月までに・・・。
・72インチ
・LED液晶
・値段 $3,499 (約32万)!!!!
の3Dテレビを発売すると発表しました。
をいをい・・・。日本メーカーは、今の価格に3万上乗せって言っている時に・・・
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とにもかくにも、映像を作る側も、映像を見る側も、3Dのインフラが来年までに完全に整ってしまうような予感です。
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■ 長く見積もっても2030年までには完全3D化
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ということで、
・技術のサイクルが今3Dに入った
・競争のターゲットが3Dに
・コンテンツの魅力も3Dに
・インフラも整いつつある
という理由から、3Dコンテンツが現実的になってきました。
ただ、世間はやっと、アナログ放送が来年に終了するという世の中です。
実際に、世間一般に3Dテレビが普及するのはいつになるでしょうか・・・。
私は20年後の2030年頃・・・と見ています。これには、ちゃんとして歴史的根拠があるのです。
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● テレビの歴史 – Wikipedia
http://ja.wikipedia.org/wiki/%e3%83%86%e3%83%ac%e3%83%93
より・・・日本のテレビの歴史(主に地上波)を見てみましょう・・・
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1939年、NHK公開実験(テレビ実験)
1953年、テレビ放送開始(テレビ実用化)
1956年、カラー放送の実験(カラー実験)
1960年、カラー本放送開始(カラー実用化)
1962年、テレビ普及率75%突破(テレビ普及)※1
1973年、カラーテレビ普及率75%、白黒を超える(カラー普及)※1
1978年、ステレオ放送開始
1991年、BSハイビジョン開始(ハイビジョン(HD)実験)
2003年、地デジ放送開始(HD実用化)
2009年11月、地デジ普及率69.5%(HD普及)※2
※1 図録▽モノクロの世界からカラーの世界へ(スナップ写真とテレビ)
http://www2.ttcn.ne.jp/honkawa/2650.html
※2 総務省:地上デジタルテレビ放送に関する浸透度調査の結果 (PDF)
http://www.soumu.go.jp/main_content/000043398.pdf
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ここから、実験開始から普及までの年数を見てみると
テレビ自体: 1939〜1962 = 23年
カラー化: 1956〜1973 = 17年
HD化: 1991〜2009 = 18年
だいたい、20年ぐらいで、新技術が普及しているのがわかります。
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ということで、世界各地で3Dの放送が開始される今年が3D本放送の元年となりますので、普及に20年かかると見て・・・。
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2030年までに3Dになるのは確実でしょう。
ということで、そろそろ、私も3Dで作品作ることを考えないといけないな〜。
面倒くさいな〜(苦笑)
でも、いくつものデータで私の考えが正しいことが証明できるので・・・残念ながら、3D対応は必須ですね〜。
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■ 映像制作者としての3D制作心得
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もう記事が長くなってきたので、短くまとめますが・・・「アバター」の3Dを見た時の感想
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・視聴者の映像を受け止める完成が変わる(夢がテレビのカラー化でカラーになったように)
・下手に絵を作りこめなくなる?
・3Dでは、24コマ/秒はきつい。60コマ/秒必要
・クロースアップは酔いやすくなるので、アクション系映画の演出方法の新技法が必要
・NEC & ブラザーが開発している、映像を直接目に照射する方法が一番酔わないかも
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さーて、今年もがんばりましょう〜。
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